
2025年度、実践女子大学の生活環境学科(現・環境デザイン学部 環境デザイン学科)において、新たな教育の柱となる選択必修科目「生活環境プロジェクトa・b」(2026年度から環境デザインプロジェクトa・b)が始動しました。これは、少人数のグループワーク形式で、地域や社会と連携しながら現実の課題に挑む、2年生を対象とした課題解決型学習(PBL)です。
初年度のパートナーは、日野駅商店会の会員が所属する「ひのプロ」(日野宿通り周辺「賑わいのあるまちづくり」プロジェクト)。「世界で一番面白い商店会をつくろう!」というテーマのもと、「生活環境プロジェクトa」ではフィールドリサーチやワークショップ、ヒアリング等を通じて地域の課題の本質に迫りました。「生活環境プロジェクトb」では、抽出した課題を解決するアイデアを企画書にまとめ、デザインの力で未来を提案するプレゼンテーションに挑みました。
今回は、2025年度の授業を担当した4人の教員(安齋利典先生、一色ヒロタカ先生、大川知子先生、塩原みゆき先生)に、この授業の魅力や手応え、今後の展望について語っていただきました。
領域を越え、社会の「真の課題」に挑む
2025年度から始まった「生活環境プロジェクトa・b」は、大学と地域が手を取り合う産学連携の体験型授業です。初年度は日野駅商店会の方々による『ひのプロ』と連携し、「世界で一番面白い『商店会』をつくろう!」という野心的なテーマを掲げました。

一色先生

大川先生
1年次で基礎を学び、3年次から専門的なゼミが始まる。その間にある2年次は、専門的な学びへと踏み出す重要なターニングポイントです。学部長の橘先生からも「学部の目玉となる授業に」と期待されていましたが(笑)、デザインという視点が社会の課題解決にどう貢献できるかを、机上の空論ではなく「実学」として提供したいという思いがありました。

塩原先生
そうですね。本学科には「建築」「プロダクト」「アパレル」「総合デザイン」という4つの領域がありますが、それらの学生が混ざり合うグループワークを通じて、自分の専門が社会の中でどう機能するかを肌で感じてほしいと思いました。
認知科学者のドナルド・ノーマンは「デザイナーは本当の問題が何かを見定める」という趣旨のことを述べています。学生たちにも、フィールドワークやインタビューを通じて、表面的な課題ではなく日野という街の「本当のニーズ」を探り当てる経験をしてほしいと考えました。

安齋先生
教室を飛び出し、街をキャンパスに




「生活環境プロジェクトa」で学生たちとフィールドワークに出てみていかがでしたか? 私は、あえて実現性の有無に関わらず「世界で一番面白い商店会」をテーマにしたことが、常識に縛られない自由な発想につながったように感じています。

一色先生

大川先生
商店会の方々へのインタビューを通し、街の活性化に対する熱い思いや厳しい現実を直接聞いたことで、学生たちのやる気が目に見えて変わりました。
プロダクトデザインの視点でも、エスノグラフィー(行動観察)的な調査は不可欠です。今回、ステークホルダーである日野駅商店会や「ひのプロ」の皆さんの生の声を聞き、その調査結果を根拠として示しながらプレゼン資料にまとめる。デザイナーの卵に必要なプロセスを実践できたのは大きかったです。

安齋先生

塩原先生
異なる専門分野の教員がチームで指導にあたることで、学生たちも自分の領域を超えた刺激を受けているように見えました。身近な地域の問題を「自分事」として捉えられるようになったのではないでしょうか。
初年度ならではの「想定外」と格闘!




商店会の方々と協働するにあたり、予定調和なゴールではなく、学生自らが課題を見つけ、自らゴールを設定するカリキュラムにしました。しかし、これは学生だけでなく私たち教員にとっても非常に難しい挑戦でしたね。

一色先生
私の場合は、「生活環境プロジェクトb」最終成果物である「アイデアブック」の作成にあたり、資料のトーン&マナーを統一するよう指導しましたが、テンプレートを配っても意図を正しく理解してもらえず苦戦しました。事前の計画はあっても、その場対応に追われる場面も多く、教員間での事前のすり合わせをより綿密に行うべきだったという反省もあります。

安齋先生

大川先生
グループワーク特有の難しさもありました。発言しやすい雰囲気を作り、いわゆる「フリーライド(他人任せ)」が出ないよう、全員がチームに貢献できる方法を模索するサポートには気を配りました。また、正解のない答えを導き出すための情報収集は、ともすればネット頼りになりがちです。できる限り自分の足で歩いて情報を集め、実感のこもった説得力あるプレゼンを目指そうと、繰り返し伝えました。

塩原先生
教員側として、どこまで技術的なアドバイスをするか、その「さじ加減」も常に議論の対象でしたね。手を貸しすぎれば学生の主体性が育たない。でも放置しすぎると迷走してしまう。そのバランスについては試行錯誤を重ねました。
108のアイデアが証明した学生たちの「可能性」

「生活環境プロジェクトb」の最終プレゼンで、合計108個という多様なアイデアが出そろったのは圧巻でした。中には専門的に学んでいないはずの「ブランディング」に焦点を当てた提案もあり、驚かされましたね。答えがない問いに対し、主体性と論理的思考を持って「自ら答えを作り上げていく」という、私たちが求める「育成したい学生像」を体現していたように思います。

一色先生

大川先生
学生の成長には目を見張るものがありました。当初は消極的だった学生が、最後には商店会の方を前に堂々と提案を説明している。その姿には感動を覚えました。次年度以降も、周囲と協力しながら、正解のない課題に果敢に挑戦してほしいです。

塩原先生
テストやレポートでは見えなかった才能が開花した学生もいました。はつらつとグループをまとめ、質疑応答にも臆せず自分の経験を交えて答える――。学生から「この成果物を就活の自己アピールに使いたい」という声が出たのも、この授業の有意義さの証明だと思います。多様な人と協働して一つのものを作り上げていく喜びも知ってもらえたのではないでしょうか。
限られた条件の中でここまで到達できた点には、大きな手応えを感じました。さまざまな問題を自分事として捉え、自ら問題を見つけて「課題化」する。それは、デザインの本質につながる力です。学生の育成に最適な教材を提供できただけでなく、地域社会に貢献する結果を生み出せた点も評価したいですね。

安齋先生
「本物の価値」の社会実装を目指して

次年度以降は、今回出た108のアイデアを少しずつ「社会実装」させていく段階に進みたいです。学生と教員が共に、より精度の高いゴール設定を模索していければと思います。

一色先生

塩原先生
アイデアブックで終わらせず、数年の中期的スパンでアイデアを実装し、その評価や改善まで行う「サイクル」を回せる授業に成長させていきたいですね。

大川先生
そのとおりです。地域貢献は一過性では意味がありません。日野駅商店会との関係を継続させ、学生が主体となって「街の未来」をアップデートし続ける仕組みを作りたいですね。
自分自身も多くの学びを得られる授業でした。初年度の教訓を生かしながら、本学科の「顔」となる特徴的な授業に発展させていきたいと思います。

安齋先生
環境デザイン学科を目指す受験生へのメッセージ

塩原先生
環境デザイン学科は、4つの異なる領域を一つの学科で学べる非常にユニークな場所です。まずは自分の「好き」を見つけ、そこからデザインの可能性を広げていきましょう。

大川先生
見た目の美しさや描写力だけが「デザイン」を意味するわけではありません。本学科なら、協働による複合的な視点から「デザイン」を捉え、新しい価値を発想する力を養うことができます。ぜひ、共に学びましょう。
経験豊かな教員がそろっています。社会へ羽ばたく力を身につけられるよう、教員全員でサポートします。

安齋先生
4つの領域を横断的に学びながら、各領域に縛られない総合デザイン的アプローチの方法を学べるのが本学科の特色です。地域や企業と連携したカリキュラムも豊富で、机上では得られない多くの学びがあります。ぜひ一緒に、未来をデザインしましょう!

一色先生