提案から商品化へ。相撲文化を身近にするデザインに挑戦

本学は2017年に公益財団法人日本相撲協会と包括連携協定を締結し、コラボグッズの開発や両国国技館での販売ボランティアなど、産学連携の取り組みを続けています。2025年度も、生活環境学科(現・環境デザイン学科)プロダクトデザイン研究室のゼミ生が、“スー女(相撲好きの女性ファン)”を増やすためのグッズ開発に取り組みました。
学生たちは4月から相撲に関する調査を始め、5月には両国国技館で現地調査を実施しました。その後、6月に学内でプレゼンテーションを行い、9月1日には両国国技館で日本相撲協会に向けて企画を提案しました。
今回販売されたのは、昨年度の3年生、現在の4年生の小野﨑和佳さんが提案した「ダブルミラー」です。デザインは「塩まき」(写真:右)と「屋形」(写真:左)の2種類で、価格は各880円(税込)。2026年5月の大相撲五月場所で販売が始まり、7月場所以降も会場とインターネットで販売される予定です。相撲観戦の記念品としてだけでなく、日常でも使いやすいグッズとして商品化されました。

さりげなく相撲を感じられるグッズに

デザインを担当した小野﨑和佳さんは、企画の段階で、大学生を中心とした若い女性に使ってもらうことを想定しました。相撲に関心があっても、同じ趣味を持つ人を見つけたり、自分から話しかけたりすることには勇気がいると考え、持っていることで自然に会話のきっかけになるようなグッズを目指しました。
「相撲が好きなことを、さりげなくアピールできるものにしたいと思いました。ミラーならコンパクトで持ち運びやすく、普段からポーチやかばんに入れて使ってもらえると考えました」と小野﨑さんは振り返ります。
今回商品化された「塩まき」は、土俵上で力士が塩をまく姿をモチーフにしたデザインです。小野﨑さんは、相撲について調べる中で、塩がまかれる瞬間に力強さやかっこよさを感じ、特徴的な所作として取り入れました。
もう一つの「屋形」は、土俵上のつり屋根をモチーフにしています。色には、相撲協会の色でもある藤色を取り入れ、相撲の格式や雰囲気を表現しました。「塩まき」には紺色を用い、落ち着いた印象に仕上げています。直径は70ミリで、持ち歩きやすいサイズになっています。


商品化を意識し、使いやすさと実現性を両立
小野﨑さんが2025年9月のプレゼンテーション時点で提案したのは、行司の軍配をモチーフにしたコンパクトミラーでした。その後、日本相撲協会から複数案の展開を求められ、相撲に関係する要素を取り入れたデザインを10案作成しました。力士を前面に出しすぎず、相撲らしさをさりげなく感じられることや、普段使いしやすいことを意識しながら検討を重ねました。2025年12月にはデザイン展開案を作成し、最終的に「塩まき」と「屋形」の2種類に絞られ、2026年4月の最終案を経て商品化されました

プレゼンの様子


デザインを考えるうえで意識したのは、商品として実現しやすい形にすることでした。複雑な形状や細かな加工が必要なものは、制作に時間や費用がかかり、商品化までのハードルが高くなります。そのため、既存のミラーの形を生かし、そこに相撲らしいデザインを印刷することで、商品化につながりやすい提案を目指しました。
商品化までの過程で難しかったことについて、小野崎さんは、手書きのイラストを元にアイデア展開し、相撲協会の要望に合わせて最終案にまとめた作業を上げます。
「自分が考えたものを提案することと、実際に商品として形にすることには違いがありました。頭の中で思い描いたものを現物にする難しさや、使う人のことを調べ、求められていることを理解したうえで形にしていく大切さを学びました」と小野﨑さんは話します。

販売開始を知り、驚きと責任を実感

大相撲五月場所で販売が始まると聞いたとき、小野﨑さんは驚きと同時に、商品として売られることへの責任も感じたといいます。実際に販売されている様子を写真で見たときには安心し、家族や周囲の人にも喜んでもらえたことが印象に残っていると話します。
今回の経験は、今後の制作にもつながっています。小野﨑さんは、卒業制作においても「使う人のことをしっかり調べ、何が求められているのかを理解したうえで、必要な機能や形を考えていきたい」と話します。
商品を手に取る人に向けては、「買ってくださった方には、本当にありがとうございますという気持ちです。日常の中で使ってもらえたらうれしいです」とメッセージを寄せました。

安齋利典教授「外部と関わり、商品になる経験は大きい」
プロダクトデザイン研究室で学生の指導にあたる安齋利典教授は、日本相撲協会とのグッズ開発について、学外の人と関わりながらアイデアをまとめ、商品として形にしていく経験は、プロダクトデザインを学ぶ学生にとって大きな意味があるといいます。

今回の「ダブルミラー」の商品化について、安齋教授は、学生が学外の関係者とやり取りを重ね、提案したデザインが実際の商品として形になったことを意義深く受け止めています。一方で、既製品にデザインを加える形となったため、今後はよりオリジナル性の高い商品にも挑戦させてあげたいと期待を寄せました。
昨年9月に両国国技館でプレゼンテーションした数あるデザインの中から、ミラーが商品化につながった理由について、安齋教授は、ほかの立体的な提案に比べて実現しやすかったことに加え、現在販売されている相撲グッズの中でミラーが少なかったことも理由の一つではないかと考えています。
また、学生の成長については、単にイラストを描くだけでなく、プロトタイプとして形にし、提案できる段階まで持っていく経験が重要だったと話します。「ものを完成させることの難しさや楽しさは、経験しないと分からないものです。コンセプトを考え、形にし、プレゼンテーションをする一連の流れを経験できたことが、学生にとって大きな学びになったと思います」と述べました。

学生たちは実際に両国国技館を訪れ、どのような人が来場しているのか、どのようなグッズが販売されているのかを体感しました。さらに、親方や日本相撲協会の商品開発担当者を前に企画を発表することで、緊張感のある実践的な経験を積みました。
「実際にデザイナーになれば、自分のデザインを自分の言葉で伝えなければなりません。外部の方々に向けて提案する経験は、学生が社会に出ていくうえでも大切な学びになります」と安齋教授は話します。
今後については、グッズ提案にとどまらず、相撲に親しむ人を増やすためのプロモーションやSNSでの発信など、より広い視点での提案にも挑戦していきたいとしています。
今年度の3年生も、同じく日本相撲協会に向けたグッズ開発に取り組んでいます。安齋教授は、身近な先輩がデザインした商品が実際に販売されたことを励みに、今年度の学生にも意欲的に取り組んでほしいと期待しています。

※このページの掲載内容は、取材当時のものです