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答えのない「用途非特定」建築に向き合った1年間。国内外の卒業設計展への挑戦でみえてきた、「自分にしかできない建築」という夢。

このストーリーの3つのポイント

  • 挑戦したこと 卒業制作で「用途非特定」をテーマに、模型をつくっては考え直す試行錯誤を重ねたこと
  • 挑戦して得たこと 自分の考えを形にし、相手に伝えるために工夫し続ける力と、自分自身への自信
  • 次にチャレンジしたいこと 新しい環境や価値観に触れながら、自分にしかできない建築を追求すること

生活科学研究科 生活環境学専攻 修士1年 Y.M

「用途ありき」ではない建築を考えてみたい。

高校時代は文系でしたが、建築系のデザインを学びたいと思い、実践女子大学に入学しました。

卒業制作で取り組んだのは、「用途非特定」という考え方を軸にした建築です。

一般的に建築は、住宅やオフィス、商業施設など、「何に使う建物なのか」という用途を想定して設計されます。でも私は、最初から用途を決めて建築を考えるのではなく、さまざまな使い方を受け入れられる空間をつくることはできないかと考えました。

私の作品では、棒状の部材を連鎖・交差させてつくる空間と、大小の面を回転・積層させてつくる空間という、異なる二つの構成を考えました。それらを組み合わせ、一つの建物の中にさまざまな特徴を持つ空間をつくり、小規模な大使館を用途の一例として配置しました。

使い方を一つに決めるのではなく、変化する空間に人々の活動が順応し、新たな使い方が生まれていく。そこから、多様な人や文化が共存する可能性を建築によって表現したいと考えました。

そうして生まれたのが、卒業設計作品『用途非特定型高層連続建築 -Line animation/Surface animation-』です。

きっかけは、大学4年生の前期に取り組んだ授業課題でした。さまざまな用途を受け入れられる建築の形や空間について考えたことで興味が深まり、「用途を前提に建築を考えるのではなく、もっと根本的に建築と用途の関係を考えてみたい」と思うようになりました。

そこから、「用途非特定」を卒業制作のテーマにすることを決めました。

Y.Mさんの卒業設計作品『用途非特定型高層連続建築 -Line animation/Surface animation-』
国立台北芸術大学ではディスカッション形式の「Pioneer Review」が3回行われた

作って、壊して、また考える。少しずつ自分の答えを見つけていった。

制作の中で大きな壁になったのは、「用途非特定」とは何かを、自分なりに定義することでした。

既存の建築の考え方をそのまま使うのではなく、「用途を特定しない建築とはどのようなものなのか」「さまざまな活動を受け入れられる空間を、どうつくればよいのか」というところから考えなければなりません。

スタディ模型と呼ばれる検討用の模型を何度もつくりながら、空間の構成や建物の形を考えていきました。

模型を実際に手に取り、上から見たり、横から見たり、角度を変えたりしながら空間を確かめます。少しでも納得できない部分があれば、またつくり直しました。

作っては壊し、また作る。その作業を何度も繰り返したため、最終的にいくつ模型を作り直したのか、自分でも覚えていないほどです。

思うような形にならず、考え直すことも何度もありました。それでも、毎日大学へ行き、手を動かしながら考え続けました。

最初から正解が見えていたわけではありません。試してみることで違和感に気づき、そこからまた考える。そうした小さな積み重ねを続けるうちに、少しずつ自分が考える建築の形が見えてきました。

そして、最後まで考え続ける力になったのが、一緒に卒業制作に取り組んでいた同期の存在です。

それぞれが自分の作品に真剣に向き合っている姿を見ると、「自分も頑張ろう」と思えました。お互いに刺激を受けながら制作できたことが、最後までやり切る大きなモチベーションになったと思います。

約1年間取り組んだ卒業設計作品は、全国の建築を学ぶ学生が卒業設計を競う「せんだいデザインリーグ2026 卒業設計日本一決定戦」で、「日本二」に選ばれました。また、「赤レンガ卒業設計展2026」では、1,000点以上の応募作品から「100選」、さらに「10選」に選出されました。

結果はもちろんうれしかったですが、それ以上に、自分なりに考え、何度も試しながら形にしてきたものを評価していただけたことが、大きな自信になりました。

「台北パフォーミングアーツセンター」での最終プレゼンテーションの様子

台湾での経験が、もっと建築を知りたいという思いにつながった。

国内のコンクールに参加する中で、建築に高い意識を持って取り組んでいる学生たちと出会いました。互いの作品を見たり、話したりする中で刺激を受け、「もっと建築を知りたい」「もっと建築がやりたい」と思うようになりました。

特に印象に残っているのが台湾での経験です。

国内の卒業設計展を終えた後、私の卒業設計作品は、台湾の国立台北芸術大学および台北パフォーミングアーツセンターで開催された「IEAGD大学建築学科卒業設計国際展覧会」に出展されました。

台湾での出展に向けては、国内で使ったプレゼンテーションをそのまま持っていくのではなく、改めて内容を見直しました。

私の作品では、小規模な大使館を用途の一例として扱っています。そのため、日本にある大使館が現在どのような役割を担い、どのような活動をしているのかについても説明を加え、日本の状況を知らない審査員の方にも作品の背景が伝わるようにしました。

また、さまざまな国や文化を背景に持つ審査員や参加者に伝えるため、作品のテーマを国際的な視点から捉え直し、言葉の選び方や図解の見せ方も工夫しました。「自分が何を伝えたいか」だけでなく、「どうすれば相手に伝わるか」を意識しながら、プレゼンテーションをブラッシュアップしました。

台湾で一番心に残っているのは、国際的な建築設計事務所OMA(Office for Metropolitan Architecture)が設計した「台北パフォーミングアーツセンター」でプレゼンテーションをしたことです。

世界的に知られる建築設計事務所が手掛けた建物の中で、自分の作品を発表できたことがまずうれしかったです。これまで経験した中で最も大きな会場で、大きなスクリーンを前に、多くの方に自分の作品を見ていただくことができました。

さらに、参加作品の中から最終プレゼンテーション「Grand Review」に進む8名の一人に選ばれ、最高賞にあたる「The Progressive Award」を受賞することができました。

海外の方々にも作品を評価していただけたことは、大きな自信になりました。

ただ、台湾で得たものは受賞だけではありません。

海外の建築学生と交流し、それぞれが異なる環境や価値観の中で建築を考えていることに触れたことで、「自分にはまだ知らない世界がたくさんある」と強く感じました。

卒業制作を始めたころは、目の前の作品をどう形にするかということで精いっぱいでした。でも、模型を何度もつくり直し、国内外で作品を発表し、さまざまな人と出会ったことで、建築そのものを以前よりも好きになりました。

そして、「建築を通して自分は何をしたいのか」「これからどのような人になりたいのか」も、少しずつ見えてきました。

「卒業設計」という挑戦を通して得た一番大きなものは、評価や賞だけではなく、自分で考え、まず行動してみることで、次に進む方向が少しずつ見えてくるという実感です。

現在は大学院で建築を学んでいます。

これからは、もっと積極的に新しい環境へ飛び込み、自分とは異なる価値観に触れていきたいです。そこで得たものを吸収しながら、「自分にしかできない建築」とは何なのかを、これからも探し続けたいと思っています。

「IEAGD大学建築学科卒業設計国際展覧会」では、最高賞にあたる「The Progressive Award」を受賞
【9月8日追記】「せんだいデザインリーグ2026 卒業設計日本一決定戦」で、生活環境学科(現:環境デザイン学科)の卒業生が「日本二」に選ばれました(3/8)

Message from 実践人

  • 生活科学研究科 生活環境学専攻 修士1年 Y.M

    やりたいことがあるなら、最初から完璧な答えを求めすぎず、まず自分なりに一歩踏み出してみることが大切だと思います。 実際に動いてみると、うまくいかないこともあります。でも、その中で考え直したり、違う方法を試したりすることで、自分の考えが少しずつ深まっていきます。 また、自分とは異なる考え方や価値観に触れることで、それまで気づかなかった可能性が見えてくることもあります。 一つひとつの経験を次につなげながら、自分が本当にやりたいことを見つけていってほしいです。

※このページの掲載内容は、取材当時のものです