みんなで作った門をARで城跡に“よみがえらせる”――学生の発想とアート、デジタル技術で地域の歴史を身近に(8/22)
文学部美学美術史学科の学生らは8月22日、福島県相馬市中央公民館が主催する「ふくしまSOSOアートワークショップin相馬」の一環として、オリジナルプログラム「巻いてつくる門!~もんたとゆかいな仲間たち~」を実施しました。学生たちは、市内の城跡に現在も唯一残る「大手門」をキャラクター化し、その仲間として、失われた他の門のオブジェを作って舞踏会を開催するという物語風のプログラムを考案しました。完成した作品は生成AIでデジタル化し、市の歴史的文化遺産の中村城跡でAR(拡張現実)アートとして現実の風景に重ねました。約400年前の歴史を、今を生きる人たちが自分の手で作り、歩き、体験する一日となりました。
「アイスブレイク」から始まった「もんた」の物語
今回のプログラムは、学生たちがワークショップの冒頭で、参加者の緊張をほぐし、制作への意欲を高める「アイスブレイク」を考えるところから始まりました。
「どうやって参加者の緊張をほぐそうか」と考える中、H.O.さん(2年)は、現存する大手門を「もんた」というキャラクターにすることを思いつきました。
「もんたがいるじゃん」
この一言をきっかけに、アイスブレイクのアイデアは、次第に一つの物語へと発展していきました。中村城には、かつて19カ所の門があったとされます。そのうち現在も残っているのは大手門だけ。そこで、ひとりになってしまった大手門を「もんた」とし、いなくなった仲間を集めてもんたを励ます「舞踏会」を開くという設定が生まれました。参加者は、もんたの仲間となる門を作り、舞踏会に参加するというストーリーです。
「なくなった門を再現してみんなで作る」という原案から、「人がいっぱい集まっている状態はパーティーみたい」「最後はみんなで踊れたらおもしろい」とアイデアが広がり、「舞踏会」にたどり着きました。この展開について、下山肇教授は「授業で学んだことを超えた、学生たちのパーソナリティーが組み合わさった化学反応だ」と説明します。学生それぞれのこだわりや感性が組み合わさり、「かわいい」「愛着が持てる」という感覚が共鳴したことで、一つのキャラクターと物語が形になりました。
H.O.さんは「一見お遊びみたいなものでも、ちゃんと口に出せばみんなが同じ熱量で協力してくれる」と振り返り、「仲間同士で協働し合ったことから、ここまでのクオリティーにできた」と話します。
子どもたちが作った「もんた」の仲間たち
当日は、相馬市中央公民館に地元の小学生と保護者17人と、活動に関心をもった市民や地域の高齢者数人、相馬高校と相馬総合高校からは高校生11人が集まり、合わせて35人余りが参加しました。また、実践女子大学からは「アートと社会連携」を履修する2~4年生13人と卒業生5人が運営を支えました。

午前10時から始まったワークショップでは、H.O.さんと田中あいなさん(2年)が、「もんた」が仲間を集めて舞踏会を開く物語を紹介。参加者たちに「もんたの仲間となる門を作ろう」と呼びかけました。続いて、森田歩乃佳さん(2年)がファシリテーターとしてマイクを手に、制作方法を説明しました。カラフルなテープを使って乳酸菌飲料の空き容器を固定し、モールや金色の素材を巻き付け、紙皿を屋根に見立てます。子どもたちは素材や色を自由に選び、それぞれ個性のある門を完成させました。森田さんは、本プロジェクトに先立って行われた「学びのフェス2026夏(毎日新聞社・毎日小学生新聞主催)」でのファシリテーション経験を生かして制作をリード。試作では1時間以上かかっていた制作工程も、学生たちが話し合って不要な工程を見直したことで、約30分に短縮しました。

「これだけ多い人数を対象にするのは初めてでしたが、平常心でできました。みんなで意見を出し合って、年齢、経験に関係なく参加者が作りやすい形にできました」と森田さん。
作品の土台となる素材は、東京ヤクルト販売株式会社と福島ヤクルト販売株式会社から提供された乳酸菌飲料の空き容器を活用しました。企業への協力依頼を担当した田中さんは、ポスターやロゴ、紙袋のデザインも手がけました。田中さんは「企業の方に自分からメールを送って、実際に会社を訪問してお話しすることもできました。ビジネスメールや企業訪問など、普段の大学生活ではなかなかできない経験になりました」と振り返ります。



自分たちで作った門が、ARで城跡に現れる
完成した門は一つずつ撮影し、生成AIを使ってデジタルデータにしました。午後は参加者全員で中村城跡へ移動し、大手門の場所の近くでARを体験しました。スマートフォンやタブレットで二次元コードを読み込んでカメラを現地の風景にかざすと、午前中に自分たちが作った門のオブジェが、画面上に現れます。現在の城跡に、自分が作った門が重なる。参加した高校生からも、ARを通して、かつてこの場所を人々が門をくぐって行き来していたことを実感したとの声が聞かれました。

今回のデジタル化では、「Tripo AI」、「STYLY Web AR」の協力を得て、これまで複数の段階に分かれていた工程を一本化しました。制作した作品をスムーズにAR化し、参加者がその日のうちに現地で体験できる仕組みを実現しました。
卒業生も相馬へ。世代を超えて続く学び

今回の活動には昨年に引き続き、実践女子大学の卒業生も5人参加しました。学生時代に参加できなかったプログラムを実際に体験してみたいと参加した卒業生や、在学中に学んだ「体験をデザインすること」への関心から、仕事を休んで参加した卒業生もいます。また、最初の福島でのプロジェクトから継続して参加し、毎年変わる学生の発想を見ることを楽しみにしている卒業生もいます。卒業後も大学の活動に関わり、現役学生と一緒に地域での体験をつくる。今回の5人の参加は、大学での学びが卒業後も続いていることを示す機会にもなりました。
次は高校生へ。失われた門の歴史を調べ、未来のまちづくりへ
中村城にはかつて19カ所の門があったとされ、今回の取り組みでは、大手門と門跡計4カ所でAR体験を行いました。今後は、残る15カ所の門について、相馬高校の高校生が主体となって調査を進める予定です。下山教授は、高校生たちにARデータを活用した地図を作るだけでなく、その情報を観光や教育、市民への発信などにどう生かせるかまで考えてほしいとしています。さらに、地域の課題や魅力について考えたことを行政への提案につなげることも期待しています。高校生自身が失われた門の場所や歴史を調べていくことで、これまでただ「昔のもの」として捉えていた地域の文化遺産が、自分たちのまちを考える題材へと変わっていくことが期待されます。

下山教授が重視しているのは、アート、デジタル、教育、地域の文化遺産を組み合わせることです。地域の歴史を資料として見せるだけでなく、学生の感性や子どもたちの自由な発想、生成AIやARといった最新デジタル技術を組み合わせることで、歴史を身近に感じ「体験できるもの」へと変えていきました。「授業・研究・地域活性化」の三つを結びつけた、独自の社会連携プロジェクトです。「もんたとゆかいな仲間たち」という学生の発想から始まった今回の取り組みは、さまざまな世代の参加者たちの体験を経て、今度は地元高校生へバトンタッチされます。アートとデジタルを入口に、地域の文化遺産を次の世代が知り、町の未来を考えるきっかけをつくる。今回のワークショップは、その一歩となりました。
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