生活科学研究科 生活環境学専攻 1年 大河原 桜さん
環境デザイン学科 教授 内藤 将俊先生

埼玉建築設計監理協会が主催する第26回卒業設計コンクールにおいて、卒業生4名が入賞するという過去最多の快挙を成し遂げた生活環境学科(現・環境デザイン学科)の建築デザイン研究室。現在は生活環境学専攻の大学院生として同研究室に在籍する大河原桜さんの卒業設計は、最高賞である「埼玉県知事賞」を受賞。さらに、全国規模の卒業設計作品展であるレモン画翠主催「第49回学生設計優秀作品展(通称レモン展)」で「レモン賞」、せんだいデザインリーグ2026卒業設計日本一決定戦では「100選(来場者投票全国3位)」に選出されました。
なぜ、大河原さんは、これほどまでに評価が高い卒業設計を完成できたのか。作品の背景や「常識破り」な研究室の教育方針、本学の環境が生み出す学生の力について、大河原さんと指導教員の内藤将俊先生に語っていただきました。
受賞の決め手は地元・日高市への思いと独創的な視点

内藤先生
大河原さん、埼玉県知事賞をはじめとする数々の受賞、本当におめでとうございます。
ありがとうございます。評価していただけたらありがたいなと思っていましたが、それが現実になりうれしいです。

大河原さん

内藤先生
今回の「ごみ資源活用エコセメント製造銀座」というテーマ、最初聞いた時は「大河原さんらしいな」と感じました。原点は地元である埼玉県日高市ですよね。
はい。卒業設計のテーマのヒントを探す中で、埼玉県内のゴミのリサイクル率の1位が日高市だと知って驚きました。さらに調べていくと、市内にある太平洋セメントの工場が、ゴミを燃やしてセメントの原料や熱源にする「AKシステム」 注1を導入していることが大きな理由だとわかって。この素晴らしいシステムをほかの街に転用できれば、新しい都市再開発のモデルになるのではないかと考えたのが始まりです。
注1: 家庭から排出されたごみや事業系一般ごみそのものを、ごみ資源化キルンを利用して生分解反応(発酵)させ、普通ポルトランドセメントの原燃料としてリサイクルするシステムのこと。(https://www.taiheiyo-cement.co.jp/service_product/recycle_mw/ak/index.html)

大河原さん



教科書のない「工場」に挑んだ、徹底的なリサーチ

内藤先生
ごみを資源へと生まれ変わらせる工場のシステムを歓楽街に取り込み、人の流れと産業が交わる新しい都市空間を提案する――。非常に画期的な提案でした。これが高く評価された理由の一つに、圧倒的な「リアリティ」があったと思います。工場のシステムを建築に落とし込むのは、非常に難しい挑戦でしたよね。
そうですね。住宅や学校と違って、工場には設計の「教科書」がありませんでした。太平洋セメントにアポイントを取って実際に工場見学をさせていただいたり、ヒアリングを重ねたりして、システムをゼロから理解する必要がありました。

大河原さん

内藤先生
石灰を焼く燃料としてごみを活用し、出た灰はセメントに混ぜる。理屈は何となく理解できても、その工場の全体像をつかむのは一筋縄ではいきませんよね。工場は本来、人が使うためではなく、生産の効率を追求して作られるもの。それを、人が中に入って楽しめる空間に落とし込むのは並大抵のことではなかったと思います。
実際の工場見学に行けたのは中間発表後の秋で、それまでは映像資料や論文を漁りながら、手探りで模型を作っていましたね。

大河原さん

内藤先生
最終的には、ごみの投入量やセメントの生産量、対応できる区域まで綿密に計算し、周辺環境への配慮も考えながらリアリティを追求していました。見た目だけで作っているのではないというのが、審査員たちも驚いたポイントです。その粘り強さには私も心底驚かされました。

「混沌」を「工場の迫力」で鮮やかに書き換える

内藤先生
大宮駅東口の南銀座(南銀)という場所を舞台に選ぶにあたっても、大河原さんの視点が光っていましたね。
南銀は夜の華やかさと、朝にゴミが散乱する「混沌」とした二面性があります。この街の持つ「危うさ」やエネルギーが、工場の持つ近未来的な迫力と一致していると感じたんです。

大河原さん

内藤先生
一般的な再開発は、建物を取り払って四角いビルを建てるのが基本ですが、大河原さんは、それでは南銀が培ってきた歴史やエネルギーを失ってしまうと考えたんですよね。かといって、南銀が抱える歓楽街ゆえの危うさをそのまま残すわけにはいかない。そこで街の「混沌」を「工場の迫力」で置き換えるというポジティブな発想に至った点が極めて秀逸でした。審査員の方々からも、「建築的計画学に依拠しない、生命力に満ちた街を実現した」と絶賛されていましたね。
自分なりに納得できる設計ができ、とても満足しています。この空間を見た人に、工場をもっと身近に感じてもらえたらうれしいなと思っています。

大河原さん

建築教育の常識を覆す「内藤メソッド」

内藤先生
受賞後の懇親会では、他大学の学生や先生方から質問攻めに合いました。「どうしてこんなに学生が伸びるのか」と。うちの研究室の教育は、建築業界の常識から見ればかなり「異端」ですから(笑)。
「徹夜は禁止」「学生同士を競わせない」という建築デザイン研究室の方針には、皆さん驚かれていましたね。

大河原さん

内藤先生
建築系大学の多くの研究室では、ピラミッド組織を作って後輩に手伝ってもらいながら卒業設計を完成させます。しかし、建築デザイン研究室では「後輩に手伝いをさせず、すべて自力でやり遂げる」のが鉄則です。自ら楽しみ、自立して走り続ける力を養う。「ジョギング」とでも言いましょうか、集中力を途切れさせることなく、コツコツと地道に結果を重ねていくスタイルが、従来の組織力を超える独創性を生み出しているのかもしれません。
内藤先生のお力添えも大きいと思います。先生は、夏休み中も朝から晩まで常に研究室にいてくださるんです。分からないことがあればすぐに相談でき、的確なアドバイスがもらえます。設計以外の話をしたり、時には研究室のメンバーで一緒に食事に行ったりと、とにかく先生との距離が近いんです。この安心感があるからこそ、迷わず楽しみながら走り抜けられたんだと思います。

大河原さん

2年生から始まる「スクール」が育む、世代を超えた絆
先輩と後輩の距離が近いのも建築デザイン研究室の特徴の一つです。学年と問わず、友だち同士のような関係性です。長期休暇中に開講している「サマースクール」や「スプリングスクール」では、2年生から大学院生まで、全員が一つの空間で設計に励んでいます。

大河原さん

内藤先生
「サマースクール」はゼミ生を対象にしたものでしたが、昨年度から、まだゼミへの配属前の2年生もの対象に広げました。今年はなんと50名近くの2年生が参加しています。私に教わりたいというより、先輩たちと一緒に設計をしたいという人がほとんどじゃないかな(笑)。女性同士ということも影響しているのか、後輩たちは先輩たちをものすごく慕っていますね。
今年から2年生の参加者が大幅に増えたので、参加者同士の顔合わせも兼ねて大学院生みんなでパーティーを開きました。ホットプレートを使って、研究室で50〜60人分の料理を作って(笑)。2年生が緊張せずに先輩と話せるようにと、まずは環境づくりから始めたいと思ったんです。

大河原さん

内藤先生
こういった取り組みのおかげで、後輩たちは楽しそうに設計に取り組む先輩たちの姿を間近で見ることできます。「設計って楽しいんだ!」と自然に学んでいくんです。後輩たちは、私よりも先輩たちの言うことをよく聞きます(笑)。私が心掛けているのは、「学生の自主性」を尊重し、あえて「学生の手を引かない」ということ。グイッと無理に引き上げようとすると、私が手を離した瞬間に、自分では歩けなくなってしまう学生が多いんです。
確かに、先生は「これをやりなさい」とは絶対におっしゃいませんよね。

大河原さん

内藤先生
ペース配分も学生に任せています。一人ひとりが違っている方が面白い。だから、後ろからそっと「背中を押す」指導に徹しています。

自分で幸せを選び取れる実力を
私は現在、大学院に進学し、さらに学びを深めています。将来は、図書館や美術館、保育園のような、公共性が高く、多くの人が集まる大きな建物を手がけられる建築家になりたいと考えています。

大河原さん

内藤先生
大河原さんをはじめとするゼミ生たちは、私の想像を遥かに超えるスピードで成長しています。私の教育の最終目標は、学生たちが将来、独立するなり海外へ行くなり、「自分で自分の幸せを自由に選べる実力」を身につけさせることです。大河原さんのような先輩たちの存在が、後輩たちの「ガラスの天井」を取り払い、後輩たちをさらなる飛躍へと導いてくれると確信しています。

※このページの掲載内容は、取材当時のものです